皆様、お久しぶりです。31連休という長い長い休暇を使った世界一周旅行を終え、まだ少し肌寒さを感じるドイツ・シュトゥットガルトへと帰ってまいりました。このような長旅は初めてでしたが、幸い道中けがや病気、大きなトラブルもなく終えることができ、ほっとしております。
さて、たくさんある旅行記の中、何から書き始めようかと迷いましたが、やはり1,2を争うビッグイベントであった第123回ボストンマラソンのレビューから始めようと思います。
出場の経緯
ボストンマラソンはワールドマラソンメジャーズの中でも最も長い歴史を持つ大会であり、出場すること自体が多くの市民ランナーの目標になっています。
ボストンマラソンに出場するには、BQ(ボストン・クオリファイ)と呼ばれる資格タイムを過去1年以内の大会でクリアする必要があります。私はボストンマラソンのエントリー開始の3日前に行われたドイツのミュンスターマラソンで資格を取得し、ボストンマラソンの出場を決めました。
ボストンマラソンの出場に関しては以下の記事をご覧ください。
レース前日
早朝、ボストンの街中を軽く試走しました。ホテルからボストンコモン(レース当日のバス乗り場)を抜け、フィニッシュラインがあるコプレイスクエアまで、往復7kmをキロ5分程度で。
フィニッシュ付近はすでに車両通行止めで歩行者天国になっており、朝7時ごろでしたがすでにランナーと思われる人々が記念撮影を行っていました。私も記念に何枚か。
ホテルに戻って朝食後、再度フィニッシュラインのすぐ近くにある会場へ、ゼッケンの受け取りに向かいました。数年前のテロの影響か、警備はかなり厳重。エキスポ会場に入るのにも手荷物検査が行われていました。
ゼッケンの受け取りには写真付きのID(パスポートなど)と、2週間ほど前にメールで届いた2次元バーコードが必要です。
無事ゼッケンを受け取り、隣のエキスポ会場へ。目的はもちろんボストンジャケット。110 USDと少しお高いですが、いい記念なので購入。これを着て歩いているだけで、ホテルや町中でいろんな人から「頑張ってね!」と声をかけられます。
エキスポを出たら、徒歩でもう一つの行きたかった場所へ向かいます。それがこちら。
誰でもなかに入ることができます。研究室なんかもガラス張りで普通に中がのぞけるようになってたり。日曜日にもかかわらず、観光客や学生と思われる人が結構たくさんいらっしゃいました。
夕方からはボストンマラソンのプレレースディナーに行ってみました。しかしこちらは大混雑。事前に入場時間を指定しているにもかかわらず、入場まで30分待ち。しかも食事はいまいちで、混雑で落ち着いて食べてられません。さっさと退場してホテルのラウンジで食べることにしました。出場するランナーは無料なのですが、付き添いは1名あたり30 USDほど追加で料金がかかります。絶対に30ドルの価値はないので、来年以降出場を考えていらっしゃる方がいればご注意ください。
夜は10時前にはベッドに入り、就寝。特に緊張もなく、よく眠れました。
レース当日、スタートまで
5時起床。前日に用意しておいたフルーツやカロリーバーを食べ、集合場所のボストンコモンへ向かいます。ボストンマラソンのスタート地点はボストン市内から40kmほど離れたホプキントンという小さな町にあります。そこまで、ボストンコモンから専用のバスで向かいます。
降水確率は90%。予報では朝は強い雨ということで、念のため雨合羽を着て、靴にはビニール袋を巻いておきました。バスに乗り込みしばらくたつと、雷を伴う強い雨が。バスはなぜか途中で停車し、動き出しません。不思議に思っていると運転手からアナウンスが。「かなり雨が強いから今ホプキントンに着いてしまうとみんなびしょぬれになっちゃうでしょ。ちょっと雨が収まるまでここで待ってるよー。」なんてよい運転手なんでしょう。ランナー達からは大きな拍手が。
結局、1時間ちょっとかかってホプキントンに到着。そのころには気にならないくらいの小雨になっていました。ただ、選手村のテントは地面が芝生なのです。雨でもうぐっちゃぐちゃ。幸い、誰かが敷いていたシートの端が余っていたので、ちょっと座らせてとお願いして、そちらに座ってスタート時間まで時間をつぶしました。来年以降の参加者の方、捨てても良い簡単なシートを持参することをお勧めします。
私が所属するウェーブ1のランナーは、9:15に選手村を出発し、1kmほど離れたスタート地点へ徒歩で向かいます。道中、不要になった衣類を寄付するための袋、トイレや給水所なども用意されているため、選手村ですべて準備していく必要はありません。体を冷やしたくない方は、スタート地点ぎりぎりまで上着を着ていくことをお勧めします。ただ、トイレはかなり混雑しているので、できれば選手村で済ませておいた方が良いですね。
レース内容
10:00にエリート選手(日本からは、昨年のボストン覇者である川内優輝選手、アジア大会で優勝した井上大仁選手がいらっしゃいました)がスタートし、10:02に一般選手がスタート。私が所属するコーラル5がスタートラインに到達するまで2分ほどかかりました。
さぁ、いよいよボストンマラソンスタートです。目標は、以前からお伝えしている通り、2時間55分。
0 ~ 5km
距離 | 通過タイム | 区間ラップ | 区間ペース | 平均ペース |
5 | 0:20:02 | 0:20:02 | 04:00.4 | 04:00.4 |
スタート後、5kmまでは大きな下りです。特に、最初の1kmでいっきに40mほど下ります。ここはコース中、最もペースに注意しなければならない区間です。この下りで飛ばしすぎてしまうと必ず後で足にきます。いろいろな方の事前情報を読んでいたので、キロ4分を切らないように気を付けながら走ります。
沿道の応援には本当に驚かされました。何万人という方が、ほとんど途切れずにずっと沿道で応援を続けています。私もたまに子供たちに笑顔でタッチしながらすすみます。
5 ~ 10 km
距離 | 通過タイム | 区間ラップ | 区間ペース | 平均ペース |
10 | 0:40:12 | 0:20:10 | 04:02.0 | 04:01.2 |
下る量は落ち着きますが、依然としてコースは下り基調。心肺機能的には非常に余裕があるペースですが、後々の足のことを考えキロ4分を維持。たまに3分台が出てしまうと意識的にペースを落とします。
10 ~ 15 km
距離 | 通過タイム | 区間ラップ | 区間ペース | 平均ペース |
15 | 1:00:21 | 0:20:09 | 04:01.8 | 04:01.4 |
この辺りからほぼ平坦な道になります。たまに上り、下りがありますがペースが乱れるようなものではありません。個人的には一番走りやすかった区間です。ペースは依然としてキロ4分一桁を維持。右足首に少し違和感を感じますが、痛くはないので悪化しないことを願いつつ、足を進めます。
15 ~ 21.1 km(中間点)
距離 | 通過タイム | 区間ラップ | 区間ペース | 平均ペース |
20 | 1:20:25 | 0:20:04 | 04:00.8 | 04:01.2 |
21.1 | 1:24:45 | - | - | 04:01.0 |
17、18km付近までは緩やかな上り基調。ただ、上っていると自覚するようなものではないため、まだ走りやすいです。右足首の違和感も消え、その後、またしばらく下って、再度上りに入った20km付近。噂にもよく聞く超名門女子大学、ウェルズリーカレッジの前を通ります。500mほど手前からでも聞こえる黄色い大歓声。みんな大きなプラカードを持ち、「I'm Single KISS ME」「I'm from 〇〇 KISS ME」共通するのは、若い女性がなぜかランナーからのキスをねだっているというところです。キスしてもらった数でも競っているのでしょうか。さすがに、私と同じサブスリーくらいのペースで走るようなランナーの中には立ち止まってキスをするような方は目につきませんでしたが、ここを通るときにはさすがにテンションが上がってしまいました。
さて、私はキスミーの誘惑?にも負けずキロ4分を堅持し、ハーフの通過は1:24:45。なんと、2時間50分も狙えるペースです。足もまだまだ動きそう。気を抜かずに走ります。
中間点 ~ 35 km
距離 | 通過タイム | 区間ラップ | 区間ペース | 平均ペース |
25 | 1:40:21 | 0:19:56 | 03:59.2 | 04:00.8 |
30 | 2:00:54 | 0:20:33 | 04:06.6 | 04:01.8 |
35 | 2:21:52 | 0:20:58 | 04:11.6 | 04:03.2 |
この辺りは忍耐の時間帯ですね。沿道の応援もあまり耳には入ってきません。
26kmから33kmくらいまでの間に、大きな上りが4回続きます。通称「Heartbreak Hill(心臓破りの丘)」です。さすがに今まで30km走ってきた疲労もあり、歩いて上る方もちらほら見受けられました。 ただ、実際に自分が上ってみると大した上りではなく、「あれ、こんなもんなのかな?」という感じでした。 普段からプチトレイルランのような練習をやっていて良かったです。
Heartbreak Hill 以上に私がつらかったのが、それが終わった後の長い長い下りです。200mくらいの高さを、5kmの間で下ります。これが本当に太ももに響きました。
この辺りで、さすがにキロ4分を維持するのがきつくなってきます。35kmまではまだ2時間50分を意識していましたが、どうなるのでしょう。
35km - フィニッシュ
距離 | 通過タイム | 区間ラップ | 区間ペース | 平均ペース |
40 | 2:43:24 | 0:21:32 | 04:18.4 | 04:05.1 |
42.2 | 2:53:19 | 0:09:55 | 04:31.1 | 04:06.5 |
事前に家族と場所を打ち合わせておいた応援ポイントが36km地点にありましたので、そこまでは何とか頑張ろうと言い聞かせて走ります。無事家族の声援をもらい、後6km。ここで、残りの距離とペースを計算し、目標の2時間55分には十分到達できることを確認します。
前回のミュンスターマラソンでは、ラスト7kmで無茶をしすぎました。結果的にサブスリーを達成できたので後悔はしていないのですが、その無茶が原因となり、その後ランナー膝を発症。3か月ほどろくに練習できなかった苦い記憶があります。「これは決して楽をするためではなく、戦略的な減速だ」と自分に言い聞かせ、余裕をもってゴールできるキロ4:20~30くらいまでペースを落とすことにしました。
ボストン市内に入ると声援もひときわ大きくなります。boylston通りに入り、迎えた最後の直線500m。本当に割れんばかりという表現がぴったりなほど、鼓膜に響く声援、拍手が迎えてくれます。涙を流しながら走っている方もたくさんいました。このたった500mの沿道に数千人はいるでしょうか。まるで自分がオリンピックで走っているアスリートになったような気分を味わわせてもらえる場所でした。
フィニッシュは2時間53分19秒。目標の2:55に1分以上貯金を作ってのフィニッシュができました。
レース後
フィニッシュしてからホテルまで徒歩で移動しましたが、その間、たくさんの方から「Congratulation !」と声をかけられました。まるでヒーローになった気分。でも、もうさすがに太ももはパンパン、歩くのもつらい満身創痍です。ホテルに帰るとシャワーを浴びて、ひと眠り。
夜からはポストレースパーティに出かけました。こちらはボストンレッドソックスの本拠地フェンウェイパークで行われる、完走者のためのお祝いパーティです。特に飲み物や食べ物が提供されるわけではないですが、球場のグラウンドに出ることができたり、小さなライブ会場で演奏が行われていたりします。プレレースディナーのように混雑しているということはないですが、こちらも同伴者は有料(30 USD)。30ドル払ってまで参加したいかと言われると「?」ですが、まぁお祭りと考えれば高くはないかなと思います。ちなみに、球場内の売店で売っているフェンウェイフランク(ホットドック)はなかなか美味しかったです。
最後に
世界で最も歴史のあるマラソン大会、もっと言うとオリンピックの次に歴史のあるスポーツイベントであるボストンマラソンに参加できたこと、その大舞台でPBを5分以上も更新できたことを誇りに思います。サブスリーを達成したミュンスターマラソンも私の中では非常に思い出深い大会でしたが、ボストンマラソンはアップダウンの激しい厳しいコースを気持ちよく走りきれるために、いろいろなところに工夫が施されており、走ること自体をとても楽しくしてくれる大会だなと感じました。
私はまだフルマラソン3回目という超初心者ですが、それでもこのボストンを走り終えて、これよりすごいマラソン大会があるなんて、絶対に信じられません。 作家の村上春樹さんも長いランナー人生の中、計6回ボストンマラソンに出場し、インタビューの中で「ボストンに勝る大会はない」とおっしゃっています。
私自身はワールドマラソンメジャーズ制覇をまずは目標に掲げていますが、それが終わったら、いつか必ずこのボストンの地に戻ってきて、また走りたいと思いました。